5/30/2010

時速380kmの新幹線(その4)

一点懸念があるとすれば、安全面。日本では最高速度時速320kmで走っている新幹線が、普通に時速350kmで営業運転されている。そして、冒頭のニュースでは時速380km!この点については日本側と中国側で「ひと悶着」があったらしい。(朝日新聞Globe第9号「日本の車両も健闘、しかし……」



日本は最近でこそ時速320キロで走っているが、長い時間をかけてそれを達成しただけに、いきなり時速350km、380kmということになると、大丈夫か、と日本の新幹線を知る人であれば誰しも感じる。批判的なブログでは「天国行き新幹線」という指摘も、、、、(汗)

北京から天津に日帰りで出張するには、絶対に乗らなきゃならない便利な電車だけに、「天国行き」とはねぇ、、、、その辺のリスクも分かってますが、でっかい中国では速い電車が必要なのです!自分が乗る飛行機、電車、車は絶対事故らない、という信念のもとに、中国大陸での営業に邁進する次第です。

次のトピックでは、中国の高速鉄道の資金と鉄道経営の問題を考えます。

時速380kmの新幹線(その3)

中国は19世紀、20世紀の経験もあり、基幹産業は自前で、という意識が強いし、政策的にもそれが貫かれている。実際にトヨタなど日系の自動車メーカーや、フォルクスワーゲン等他の外資の自動車工場は、全て中国企業との合弁である。消費者の認識はトヨタ、日産、ホンダの車に乗っているのだ、という意識があるものの、中国での製造・販売される限りにおいては、中国企業にも収益が落とした上で、自らの収益を上げている。

鉄道は、よりインフラに近い重要な産業だけに、ここを単に「外国企業の技術でやりました。」と言いたくない中国政府の立場も、理解はできる。(当初は独自技術でということで「中華之星」という車両が開発された。)
中国自身が鉄道関連産業を育てたい、というのも、一つの国の政府としては当然の姿勢であり、特定の産業の振興のために外資の進出を一部制限するのは、日本もやってきたことである。

川崎重工は、中国の鉄道会社との間で「青島四方川崎車両技術」という合弁会社を設立(プレスリリースによれば日本側と中国側で50%/50%)している。製造自体は中国の国産化されているので、この会社が請け負うわけではないようだが、日中の利害を一致させる、という意味では正しい動きだと思う。日中で鉄道製造の合弁会社を作って、中国が影響力があるアフリカで鉄道を受注する、ということがあってもいいと思う。実際に、川崎重工は中国企業と共同でシンガポールの地下鉄の車両を受注(川崎重工2009年5月7日リリース)するなど、技術「収益化」を結構戦略的にうまくやっている印象を受ける。

(その4)

時速380kmの新幹線(その2)

確かに、私の中国人の友人の間ではこれがヨーロッパ、日本の技術が提供されている、ということを知らなかった人間もいたが、ウェブ上での議論を見ると、

「政府の言う知的財産を完全に保有しているのはウソなのか」
「自主開発したのか、知的財産を保有しているのかは別の議論。」

といった議論や、

「ヨーロッパ、日本の技術を基に開発された」

という正確な表現も見られ(百度知道投稿記事)、中国国内の報道でも完全に中国政府の見解が垂れ流し、という訳ではない。

私の意見としては、技術を勝手に取られた、というなら論外として、技術提供をして、技術料等で一定の収益が得られているのならば、それはそれでよいではないか、と思う。(中国政府にはもう少し外国の技術がベースで、というところを強調してもらえると、日本人のプライド的にはありがたいが)

大事なのは、自らが開発した技術が活用され、それが収益という形で収穫を得ることであると思う。高い技術を持っていていても、活用されず、収益化もされないのであれば、技術を持っている意味はあまりない。もちろん、提供した技術が勝手に第三国に輸出されたりされないように、契約等で縛ったり、合弁会社等を設立して中国側と日本側の利害関係をそろえていくことが大前提であると考える。(希合投資では、香港に拠点を置く中国に精通した大手弁護士事務所、中国の大手法律事務所とのネットワークを活用し、ジョイントベンチャー契約、投資契約等のアドバイスを提供しています。)

中国とわたりあうには政治も必要だから、このあたりは日本政府としてもしっかり中国側をツメてもらいたいところ。

実際に、川崎重工は2004年のプレスリリースでは中国からの受注額が800億円(川崎重工2004年10月20日プレスリリース)と公表している。また、中国側の担当者の発言によれば、「約900億元をかけて外国から高速技術を導入」したとのことである。(朝日新聞Globe第9号記事「『日本モデル』が目標だ-中国の高速鉄道政策-孫章・同済大学教授に聞く」)最終的に日本企業がどれくらい収益を得たのかは分からないが、それなりの収益を得た、ということが出来るかもしれない。

(その3)

時速380kmの新幹線(その1)


中国は現在営業速度では世界最高速の鉄道を運営しているのだが、これに関する日本の報道が必ずしも多くない。もしくはいかにも「パクリ」を示唆したいかのような報道が多い。中国の高速鉄道は「中国が知的財産権を持つ」(サーチナ(2010年5月29日)付記事)と報道されることが多いだけに、日本では「またパクリか」という反応がかまびすしい。

中国の高速鉄道の車両は、それぞれドイツ、フランス(アルストム)、カナダ(ボンバルディア)、日本(JR東日本、川崎重工)の技術を導入し、開発されている。北京~天津間ではシーメンスのICE-3ベースの車両と日本の「はやて」ベースの車両が同時に走っているという状況だ。鉄道ファンならば本当にうれしい状況だろう。

CRH1型:ボンバルディア
CRH2型:川崎重工(はやての車両がベース)
CRH3型:シーメンス(ICE-3がベース)
CRH5型:アルストム(TGVがベース)

ところが、中国の報道では、中国の高速鉄道は「知的財産を完全に自ら有し」ており、「あらゆる国との間でも知的財産上のトラブルは発生していない」という主張(騰訊新聞2010年3月14日付記事「鉄道部エンジニア『中国の高速鉄道は知的財産のトラブルは発生していない』と発言」)をしているため、日本では「それはおかしい」という反応が出る。

そもそも中国側がこういう発言をするということ自体、実は知的財産が自前ではない、という批判が中国内部でも起きていることを示唆しているのだが。

表面的なところだけを見て、「中国はまた外国の技術を、、、」という反応が出てしまうのも無理はないが、中国鉄道局の発言をよく見てみると決して「中国独自開発の技術」とは言っておらず、「知的財産を保有している」と言っているだけだ。

川崎重工の当時のプレスリリースにはこう書いてある。

「当社を含む日本6社は、JR東日本からの技術移転の受け皿となる光基鉄道システム株式会社を設立しており、同社を通 じて技術使用権を得、四方へは車体・台車の技術移転を、また株州電力機車研究所へは主回路装置などの電機品の技術移転を行います。最終的には、車両小部品についても部品メーカーによる中国への技術移転が望まれています。」(川崎重工2004年10月20日付プレスリリース

実際に川崎重工から、技術移転が中国の会社になされているようだ。だとすれば、中国政府の発言はある意味正確である。

(その2)

5/12/2010

中国の政治と銀行

香港の英字紙South China Morning Postで取り上げられていた書籍「Factions and Finance in China - Elite Conflict and Inflation」(Victor C. Shih著)を読んだ。英語の書籍は日本語と比べると読むのに時間がかかってしまうのだが、膨大な歴史資料と統計に基づく中国の政治と金融の研究内容をまとめた内容だけに、中国の政治と銀行について真に迫るものがあり、時間を忘れて一気に読み終わった。



内容を要約すると、以下の通り。

(1) 中国の政権内の派閥は「地方政府上がりの政治家(=ゼネラリスト)」閥と、「中央官僚上がりの政治家(=官僚)」閥の二種類の派閥があり、中国の銀行の貸し出し姿勢は、これらの派閥の力関係に左右される。

(2) ゼネラリスト閥は銀行の融資枠を国家予算と同じように捉え、金融資源配分の「分権化」を訴える。ゼネラリスト閥は自らの政治権力を高めるために、同じ派閥内のメンバーが多い省に銀行の融資を重点的に配分するよう動く。

(3) 官僚閥は金融資源配分の「中央集権化」を訴える。ゼネラリスト同様、銀行の融資を、中央政府傘下の国有企業や特定の国家インフラ建設事業への融資枠の優先的配分等を通じて、中国政府内での自らの権力拡大のために利用する。

(4) ゼネラリスト閥が力を持つときは、銀行の貸出残高が伸びる。ゼネラリスト閥の中でも実権を握っている派閥が強い省は、各銀行に圧力をかけ、省傘下の国有企業やインフラ事業に優先的に融資させる。結果として発生する、大量の不良債権の発生や激しいインフレが大きな政治問題になる。

事例:ゼネラリスト閥に長く君臨した鄧小平は経済成長を深圳経済特区を設立、広東省に優先的に資金が割り当てられた。結果として1980年代後半の20%近いインフレをもたらした。

(5) インフレの影響が深刻になると、官僚閥が台頭し、ゼネラリスト閥の中で実権を握る派閥は、他のゼネラリスト閥や保守派(改革開放反対派)からの圧力をかわすために、一時的に官僚閥と手を組み(あるいは妥協し)、金融引き締めを官僚閥に託す。官僚閥は、これに乗じて権勢を強め、地方政府による各銀行への融資圧力を厳しく取り締まる結果、インフレは収束する。

事例:官僚閥に長く君臨した陳雲の影響力はインフレが深刻化した1980年代後半に高まり、鄧小平は陳雲に託してインフレを収束させた。

中国の経済はこの(1)~(5)の繰り返しだ、というのが著者の結論である。

それぞれの派閥の代表的な人物は以下の通り。
ゼネラリスト閥:鄧小平、江沢民、胡錦涛
官僚閥:陳雲、朱容基、温家宝

派閥というと、最近の新聞では「太子党(幹部の親戚、息子中心)」、「共青団(共産党青年団)派」の権力争いがよく報じられているが、これらはゼネラリスト閥の間の権力争い、ととらえられるのかもしれない。

この枠組みを用いると、今の中国経済で起きていることが分かりやすくなる。

リーマンショック後の金融危機、景気後退に際してはゼネラリスト閥も官僚閥も一致して、銀行による資金供給の拡大に走った、と言えるのではないだろうか。2009年には経済は世界に先駆けて一気に回復し8%を超える経済成長を達成。

2010年に入ると、これ以上の資金供給は不良債権の増大やインフレをもたらすとして、慎重姿勢な官僚閥と、まだまだ景気は本格回復していない、インフレもそう深刻ではない、としてゼネラリスト閥は積極的な財政、資金供給を要求、そして両派の権力が拮抗している、という状況ではないかと見える。

最近はインフレ(=消費者物価の高騰)よりも、住宅価格の高騰が政治問題になっていることから、官僚閥の指示により、銀行は不動産に関連する融資を厳しく引締めている、という事もできるだろう。最近中国国内の新聞報道でも地方政府の隠れ債務を批判する記事が見受けられるが、これも官僚閥の見解が報道された、と理解することができる。

これらの枠組みを定性的な分析ではなく、定量的な分析も行っている本書は中国経済動向を読み解く上で非常に参考になる書であった。一点だけ、欲を言うとすれば、最近の動向や、胡錦濤政権後の将来見通しについて著者の考えを聞きたかった。

武広高速鉄路(新幹線)で湖南省長沙へ(7)

長沙市のGDPを調べてみると、2001年から2009年までに常に二ケタ成長、金額で5倍になっている。成長率はインフレを考慮して計算されているため、単純に2009年と2008年のGDPを比較すると24.7%の成長である。雪ダルマ式に増えていくから、2009年のGDPの増加幅は2001年のGDP1年分に相当する数字になっている。中国全体の2009年のGDP成長率が8.7%であるから、その勢いが分かる。もちろん、中国の地方の統計は信頼できない、という批判もあるが、少なくとも中国全体の成長を上回る成長をしている、ということは言えるだろう。

長沙市GDP
2001年 728億元(前年比+12.1%)
2002年 812億元(前年比+12.7%)
2003年 900億元(前年比+14.0%)
2004年1,109億元(前年比+14.8%)
2005年1,520億元(前年比+14.9%)
2006年1,791億元(前年比+14.8%)
2007年2,190億元(前年比+16.0%)
2008年3,001億元(前年比+15.1%)
2009年3,745億元(前年比+14.7%)

国連の報告によれば20世紀は人類史上最も都市化が進んだ世紀と言われる。日本でも起きたことだが、農業と小規模な工業から、本格的な工業化が進むと、労働力が地方から都市に流入し、さらにはこれらの人々に商品やサービスを提供するために商業化が進む。

「深層中国~巨大市場の底流を読む」(田中信彦氏執筆)第20回「中国内陸市場の攻略法を考える」によれば、「農村部の生活が底上げされてきたことで、そうした農村に囲まれた内陸の諸都市が、農村部の消費をかき集める形で急速に成長してきている」、という。中国の内陸部で起きていることは、先進国が経験してきた都市化が凝縮される形で起きていることなのかもしれない。このような状況では、深圳等の都市で今までは出稼ぎ労働者が大量に流れてきていたが、人手不足に陥るのも、内陸の都市化の影響が大きいのであろう。

高度成長を通じて成長してきた日本企業にとっては、都市化が進む中国はまさにチャンスにあふれている、と言っても過言ではないと考える。北京、上海はかなり競争が厳しいが、内陸の都市は特にこれから数年~4、5年が勝負ということが言えるかもしれない。

余談になるが、湖南の辛~い料理に少し疲れてきたので、平和堂の中にある日本食に言ってみた。メニューを見てみると、、、、
(クリックして拡大して下さい)
「日本語」ピザ、「各種日本語スタイルのピザ」ってなんじゃい!
、、、思わず店員さんに突っ込みそうになりました。
そうです、こういう「なんちゃって日本料理」が出てくるということは、日本の料理、レストランが受けている証拠。日本の外食企業にはチャンスなのだと改めて実感した次第です。(終わり)

武広高速鉄路(新幹線)で湖南省長沙へ(6)

さすが歩歩高は地元の企業だけある、、、ところがどっこい、日本企業も負けてはいない。平和堂の株洲店にはとにかくタマゲタ。デカイ。

平和堂株洲店(外観)

場所は、株洲駅の駅前



売場面積は4.3万㎡。東京ドーム1個(4.6万㎡)弱もある、巨大デパートだ。駅前の目抜き道路に面している部分は非常に小さいが、奥行きが数百メートルはあろうか。地下にはカルフール。

平和堂株洲店

平和堂株洲店の内部



ここまで来ると自分の想像の域を全く超えてしまっている。同行していた香港人の友人も驚きを隠せない様子である。
何がここまでの発展をもたらしているのか。